映画

[映画] スイス・アーミー・マン(Swiss Army Man)

 今回は久々に映画のレビューを。ターゲットは「スイス・アーミー・マン(Swiss Army Man)」

 アメリカ映画で7月にかの地でリリースされたばかりなので、現時点で邦題はおろか、日本でリリースされるかどうかも不明なのだが、「今までこんな映画見たことない(You've Never seen a movie like this)」というポスターに書かれた言葉の通り、コンセプトもストーリーも非常に斬新、かつ、とてもよくできた映画だったので、ここでも書かせて欲しい。

 登場人物はポール・ダノ(Paul Dano)演じる、冒頭シーンの無人島で自殺を試みるハンクと、ダニエル・ラドクリフ(Daniel Radcliffe)演じる死体(えっ!)のほぼ二人(と言っていいのか?)だけである。これだけ読んで、「何それ?!」と思わない人の方がおかしい。

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 ポール・ダノは今までにも独立系映画でかなりクセのある役を演じており、最近では英BBCの「戦争と平和」のドラマでもキーとなる役柄を演じていたりして、個人的にはとても力のある役者として目を付けていたが、この映画では彼ならではの、魅力のないキャラクターを魅力的に演じるという、いささか逆説的な、彼ならではの俳優としての力量を存分に見せてくれている。

 一方のダニエル・ラドクリフは、ハリー・ポッター映画の子役で名をなしたのは言わずもがな。最近は様々は独立系映画で多彩な役柄を演じているが、この映画では役柄をさらに広げたのではないかと思っている。なんせ、演じるのが死体なのだ(笑。普通ならそれは演技なのかと思われるところだが、この映画ではれっきとした、かつかなり難しい演技を要求される役どころを、実に自然に説得力のある形でこなしている。

 スイス・アーミー…と聞くと、普通はスイス・アーミー・ナイフを思い浮かべると思う。色んな場面で使えるツールを一つにまとめた万能ツールの代名詞だ。映画の中では、ラドクリフ演じる死体が様々な形でダノ演じるハンクを救うことを指しての映画タイトルとなっている。

 レビューや筋書きは昨今インターネット上で探せば簡単に見つかるが、この映画は是非予備知識なしで観て欲しい。観るものの想定外の外を行く筋書きと、ストーリーに似つかわしくない(?)美しい画像とカメラワーク、またそれに伴う音楽は、一見の価値がある。あちこちで挿入される微妙なユーモアにも、これで笑ってしまっていいのかと理性が惑いつつも気が付けば爆笑させられるという、今までにない笑わせられ方をした(苦笑。

 ただ、ここで釘をさしておくと、ユーモアのセンスや映画の設定そのものも含めて、万人向けの映画ではない。初デートにはおすすめしないし(笑、大人向けのユーモアが散りばめられているので、それらを余裕で受け止められる大人向けの映画かと思う。

 この物語は、誤解を承知で言うならば、グリム童話(子供向けに後年変えられたものではなく、オリジナルの方)が21世紀に生まれたらこういう話もありかもと思わされる、グロテスクながらも美しい(分かる人にはね)ストーリーだ。こういう映画を作成した勇気あるディレクターに拍手を送りたい。

評価:★★★★★(5.0/5.0)
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初、映画出演!(我が家の犬が、ね)

 我が家の黒ラブ犬二頭がなんと映画に出演し、その映画のワールド・プレミア上映会に招待客として行ってきた。

 と言っても、莫大な予算をもってして作られるハリウッド映画に出演した訳ではない。色々あって、イギリス湖水地方を舞台にした低予算映画の端役で出演することになったのだ。

 撮影は2014年の夏だったから、何か月かの長期編集期間を経てやっと2016年1月の初上映会に至ったわけだから、考えてみれば映画作成とは根気のいる作業である。脚本も若い監督が書いたものだから、筋書の構想から数えれば、もっと長い時間がかかっているはずだ。

 当然ながら我が家の犬達は名犬ラッシーでもなんでもないので、もらった役回りもあくまで端役。実際の映画での出演時間は30秒にも満たないものだったが、実際の撮影は午後いっぱいかかったのを覚えている。筋書の中でも鍵となるキャラクターを、森の中であちらへこちらへと追い回すというシーンをいくつも撮影したのだが、「よーい、スタート!(英語で)」での掛け声で俳優さんが動き出し、別途犬たちへのキューが出るのを待ってから犬を狙った方向に全速で走らせるという、言うはたやすいが実際はなかなか大変な撮影だった。あちらこちらへと走らされて、最後は犬たちも疲れてしまったくらいだったから、走らされる俳優さんの疲労は言わずもがなだろう。

 映画の撮影現場に立ち会うのはもちろん初めてだったが、撮影の舞台裏を見るのも興味深かった。小規模な映画撮影とはいえ、監督に助監督、カメラ撮影が二名、音声担当、小物や衣装の担当、メイクアップ担当など、かれこれ7、8名いたと思う。当然これに加えて俳優さん達がいて、さらに場合によっては私と家人のような、特定の場面のみに必要となる人々も加わるわけだから、映画の撮影とは大変なものである。

 撮影が終わってお疲れさまと現場を離れる際に、助監督から「あの、プロのドッグ・ハンドラーの方達なんですよね?」と尋ねられたのは、嬉しい驚きだった。それだけ犬がよくコマンドに従ってきちんと動いていたということを感心してもらったようなのだが、ドッグ・トレーナーでも何でもない普通の犬の飼い主としては、こういう風に言ってもらえるのはやはり誇らしいものだ。

 世界初!の映画上映会で我が家の犬達が大きなスクリーンに大写しになったのを見るのは、飼い主として単純にうれしいと共に、そういった撮影時のエピソードが思い出された。

 映画の最後のクレジットには私と家人の名前が「ドッグ・ハンドラー」として載ったので、現在友人たちには我が家の犬たちは「映画スター」、我々は「ドッグ・ハンドラー」と呼ばれている(笑。

[映画] 300 (2007)

 久々に映画の話。3月末に観たので少々古い話になるが、近年観た映画の中ではインパクトが大きかった映画の一つである。
 暴力的描写が多いということで、R指定のこの映画。実際、血しぶきも相当飛ぶ。この時点で、「この映画はタイプじゃない」と思われた方は、どうぞ以下読み飛ばして頂きたい。
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 物語の舞台は紀元前5世紀、スパルタを侵略から守ろうとする王レオニダスと王に従う精鋭300人の兵士達の戦いが物語のメインとなる。実際にあった歴史的出来事に基づいてはいるが、この映画自体が歴史的に正確かどうかはあまり問題ではなし、それについてとやかく言うのは野暮であろう。監督も「これはオペラであってドキュメンタリーではない」と言っているのは、映画を観るとよく分かる。

 映画は語り部が物語を語り進む形で進むのだが、その時その時で物語の焦点となる対象以外は画面から削り去られている。そういう意味ではストイックという印象を受けるが、それがうまく対象を際立たせて観る側の目を引きつける。下の写真からも分かるように、光と影をうまくつかった映像もこの効果を強めている。
 このほかにもスローモーショーンの効果的な使い方など、斬新な表現が使われている。近年のメジャーな映画では、マトリックス(The Matrix)が他の映画にさんざんコピーされたが、300のスタイルもこれから同様にコピーされるようになるかもしれない。
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 キャストに関して言えば、特に有名どころは出ていない。上の写真のデイビッド・ウェナム(David Wehnam)が映画「指輪物語」でファラミア役で出ていたのを覚えている人も多いかもしれないが、それ位だろう。本国米国、またヨーロッパでもかなりの興行成績を収めた本作品だが、米国ではR指定でなおかつ有名俳優・女優の出演無しでそれだけの興行成績をあげたということでも話題になったらしい。

 原作である、フランク・ミラー(Frank Miller)のコミックブック「300」。
300_comic.jpg クリックするとちょっぴり中が覗ける(Amazonさん、ありがとう)。

うちにもなぜか一冊あって(笑)、通して読んでみたが、映画の映像はほぼこのコミックブックそのままである。もっと言えば、本をそのまま映画の絵コンテに使った感じだ。フランク・ミラーは映画のディレクターもやっているので、そういう意味では彼が絵を描く視点がそもそも絵コンテ的なのかもしれない。下に挙げた、本の絵と映画の映像の一場面の比較を見ると相似が分かりやすい。
678px-This_Is_Sparta_GN_to_film.jpg イメージ出典:'Wikipedia 300_(film)'

 物語自体は5秒で要約できてしまうが(笑、その場合「30秒で分かる『母を訪ねて三千里』」位みもふたもなくなってしまうが…)、その物語を映像と音楽を組み合わせて現代版語り部的に表現したのが、この映画と言えるかもしれないと思う。語り部には、史実に正確であるよりも、時には誇張を交えながらもいかに聴き手を捉えるかの方が大切である。話から残された印象が聴き手の想像をかき立てるように、映画館を出た後に物語について想像を膨らませている自分に気が付いた。これだけCGを使った作品でありながら、鑑賞者に想像の余地を残せる、かつそれだけの印象を残す映画は、すごいと思う。

The 300 クリックすると英国の「300」オフィシャルサイトへ。
日本のオフィシャルサイトはこちら。日本での公開は6月9日から。

評価:★★★★☆(4.5/5.0)

[映画] ベルヴィル・ランデブー(Belleville Rendez-Vous) (2003)

 ヨーロッパ(といっても大陸側の話だが)では、自転車がずい分人々に身近な存在なように見受けられる。例えば、ベルギーに行った際、オランダのビーチにドライブに行く機会があった。その道中、週末だったこともあろうが、家族全員で、あるいは中年のカップルでサイクリングを楽しんでいる人々がずいぶん沢山いて、驚いた。ベルギーでも自転車は目についたが、なぜかオランダに入った途端に目に入る自転車の数がさらに増えたのだ。ただ田園地帯を通って行ったので、国境を越えると言っても特にサインがあるわけでもなく、バーやカフェのビールの看板ががハイネケンに変わるから、それと分かるだけなのだが(笑)。
 
 恐らく平らな地形も自転車がポピュラーな理由の一つなのだろうが、目的地のビーチ周辺では流れる自転車の数があまりに多くて、一瞬北京はこんな感じなのかと思ったくらいだ(大げさ)。でもビーチ前にぎっしりと止めてある自転車の中には洒落たものも沢山あり、またさりげなく凝ったアクセサリーを付けていたりして、人々がサイクリングも自転車自体も楽しんでいる様子が感じられた。

 もちろんオランダだけではない。7月にパリに行った際には滞在最終日がたまたまツール・ド・フランスの最終日で、タクシーの運転手もレース終盤の様子を熱心に話してくれた。そしてツール・ド・フランスと聞いて私が真っ先に思い出した映画が、この「ベルヴィル・ランデブー」なのである。

 映画の話をするのに、ずい分前置きが長くなってしまった(笑)。でも、日本人にはあまり馴染みがないツール・ド・フランスのような自転車レースも、大陸側ヨーロッパでは映画の題材にする位人気のあるスポーツなのだろうと、実際に目にして感じたからである。ちなみにいろいろなスポーツを発明した英国人は、自転車にはそんなに興味がないように見受けられる。代わりに、歩くのが好きだ。これについては、また別の機会に触れたい。

 シャンピオン少年は、おばあさんに育てられて平穏(?)幼少期を送るが、彼の情熱を勝ち得たものが自転車。出だしは三輪車だが、ツール・ド・フランスを目指して、おばあさんと訓練を重ねる。そして見事レース出場を果たすのだが、なんとレースの途中で悪者達にさらわれてしまう。そこで、おばあさんがペットの犬と共に、大事な孫を探しに冒険の旅に出る、というのが物語の大筋である。シャンピオンが主人公かと思いきや、実はこのおばあさんの大奮闘の方が物語のメインだ。
Belleville Rendez-Vous

 フランス人監督による、フランス、カナダ、ベルギー共同制作のアニメーション映画だが、セリフがないに等しい。だから登場人物の表情や情景描写がより引き立ってくるのだが、下の画像からも分かるように、クセのある画ははっきり言って雰囲気が暗いし、登場人物は極端にデフォルメされている。これはウォレスとグルミットのような無邪気なアニメーションではない。ブラックが入ったユーモアに多少のグロテスクさが加味されて、1930年代風ジャズを組み合わせた(この音楽がまた良い)、というのが全体の雰囲気だ。
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 ただ、これが観ていると独特の味わいで、笑わせられながらだんだん引き込まれていく。この風味、この後味、どこかで見たことがあると、観終わった後で思い出したのが、同じくフランス人のジュネ監督(Jean-Pierre Jeunet)の「デリカテッセン(delicatessen)」。暗い色調の画像、戯画化された人物達とブラック・ユーモア。この独特の処方は、フランス人好みなのだろうか。

 ディズニーやピクサー、ジブリだけがアニメーション・スタジオではない(どれも好きだが)。たまにはこんな違った雰囲気のアニメーション映画を観るのもいいと思う。私がこの映画を観た時には、日本人受けしなくて日本では公開されないのではないかとも思ったが、日本語の公式サイトを発見し、ミニシアター系でも公開された様子を見て、嬉しかった。

 フランス語原題は'Les Triplettes De Belleville'。オフィシャルサイトにも表示があるが、いろいろな賞を受賞している。

評価:★★★★☆(4.0/5.0)

[映画] セレニティ(Serenity) (米、2005)

 本国米国でヒットを飛ばし、日本でも人気が出るTVドラマシリーズは多い。ここ数年(?)で言えば、「ER」、「フレンズ」、「セックス・アンド・シティ(Sex and the City)」、「24」等々だろうか。その裏で不人気のために消えていくTVドラマは、星の数ほどと言わずとも、かなりの数に上ることは間違いない。
 
 実は「セレニティ」も、もともとは低視聴率(スポンサーの嗜好に合わなかったとも)を理由に作製がキャンセルされた、そんなTVドラマシリーズの一つで、TVシリーズの名前は「ファイアーフライ(Firefly)」。かろうじてTVシリーズのDVDが発売されているが、もちろん1セットしかない。しかし、TVシリーズに惚れ込んだ数多くのファンのサポートによって、その後映画化が実現するという、実に稀有なプロセスを経て作製された映画なのだ。このファンの’コア’さ加減は、ウィキペディアの'Firefly'の項を見てみると分かりやすいかもしれない。シーズン10まで出した'Friends'と張り合えるくらい、詳細な書き込みがされている(笑)。

 はっきり言ってこの映画、有名な役者も出ていないし、物語の舞台自体、SFアクションにもウェスタンの風味を足して2で割ったような感じである。これだけでもうB級映画の匂いがする(笑)。

 でもこれが面白い。

 スター・ウォーズのハン・ソロを思わせるような(と思ったのは私だけかと思いきや、やはりどうもハン・ソロのイメージもキャラクターの下地としてあったらしい)、ヒーローではないが船・セレニティとクルー達を何より大切にしているキャプテンをはじめとする、個性際立つ登場人物達。それに加えてユーモアが効いた脚本が、観ていて飽きさせない。映画制作の事情が事情だったこともあり、かなりの低予算だったと聞くが、CGや特殊効果にも手を抜いた安っぽい様子が見受けられない。また、TVドラマシリーズでのエピソードが物語の前提になっているのはもちろんだが、シリーズを観ていない観客にも十分楽しめるように出来ている(もちろんシリーズを観ておけば、一粒で2度、3度おいしいのは確かだが)。
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 結局、映画レビューでも高い評価を受けただけでなく、観客のハートをがっちりつかみ、なんと英国での劇場観客による投票で2005年映画の1位に輝くという成功を収めてしまった。しかもトップ10に並ぶ他の映画と比べて、2、3週間という短い劇場公開期間にも関わらずである。映画のDVDの売れ行きも相当伸びたらしい。
 
 ただ残念なことに、「セレニティ」は日本では劇場公開されていないし、そもそも本場米国で途中でキャンセルされたTVドラマシリーズ「ファイアーフライ」が日本で知られることも無いと思われる。ただここまで読んで興味が湧いた方は、こちらのサイトでTVシリーズ・映画共に関してもう少し詳しい日本語解説があるので、参考にして頂きたい(手抜きですみません…)。

 日本で知られざる娯楽映画の秀作の一つとして、オススメの作品。

評価:★★★★(4.5/5.0) 
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