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ゲームだけじゃないPS3

 今回は英国とは全く関係ない、今何かと話題のPS3についてのお話。長いので、興味のない方はどうぞ読み飛ばして下さい(笑)。

 我が家では既にPS2は部屋の片隅でホコリを被っており、代わりにXBox360が幅を利かせているので、特にPS3を買おうという気はない。それでもPS3が発売されて以来、いろいろな関連記事が目に付くので何となく目を通してみていたところ、興味深い記事をいくつか見つけた。

 一つは『しぼむ夢の構想・「PS3」は結局普通のゲーム機なのか』(11月17日)と題したコラムである。それによると、「プレイステーション」の生みの親でもあるSCEの久多良木健社長は、

 PS3を最終的にはオープンソースの基本ソフト「リナックス」を搭載したPCに発展させ、PCのデファクトスタンダードであるマイクロソフトのウィンドウズPCを脅かす地位にまで高める

という構想を抱いていたという。この構想のキーとなるのが、SP3に搭載された「Cell」チップである。このCellの構想が立ち上がった2002年には、

セルを搭載したPS3が計算パワーに余裕を持つときは、ネットワークを通じて計算処理を肩代わりし、要求された計算を処理してデータを戻す。ネットワークに接続されたすべてのPS3が巨大なコンピュータ群として個々のマシンを補い合い、全体としてハイパワーPCとして機能する。それによって、一定のペースでしか性能の向上が見られないコンピュータの性能を、一気にPS2の1000倍まで引き上げるというビジョン

があったそうである。ネットワークを使った分散処理だ。当時、SonyがIBMや東芝と組んでCellの開発を始めるというニュースを読んだのは覚えているが、こんなことを考えていたとは全く知らなかった。へぇー。

 ただ肝心のCellの開発では、Sony内部で開発方針に関して紆余曲折があったらしく、その辺の様子は『久夛良木氏を見放したソニーの迷走』(11月13日)というこちらのコラムから伺うことができる。その結果、

分散コンピューティングの概念は結局は、セルのなかにコアを8個搭載するマルチコアが並列に作業をしてスーパーコンピュータ並の性能を引き出すというコンセプトまで縮小された。当初の構想は、もう過去の一種のペーパーウエアのようなものになったと考えられていた。(『しぼむ夢の構想・「PS3」は結局普通のゲーム機なのか』より)

ところが、

今年9月の「東京ゲームショウ」の基調講演で、久多良木氏はこのオリジナルの構想をまだ諦めていないことを明かにし、話はややこしくなる。その講演は、数年後にはPS3のセルの計算能力を使い、ネットワークを通じて劇的に性能を引き上げるようなアプリケーションの登場をにじませた内容だった。(同コラムより)

 この最終アプリケーションのために実験的な試みは、実は既に始まっているのではないか。そう思ったのは、このニュースを読んでからである。題して「SCE、PS3でがん研究に参加―スパコン並みの性能活用」(11月17日)。参加できるのはスタンフォード大学の研究である。実は2002年当時既に、「スタンフォード大学のたんぱく質の構造研究に、PS3を用いた分散処理が使用できるようになる」という話がされているから、スタンフォード大学とはCellの開発当初から何らかの繋がりがあるようだ。

 通常ならスーパーコンピュータが要求されるような大規模・複雑な計算を、個人所有のパソコンの未使用計算能力を使って処理しようという話は結構以前からある。通常のPC使用状況では、ワードやエクセル、メーラー等々のアプリケーションを複数使っていても、時間平均で50~90%のCPU計算能力は使用されていない。各パソコンの計算能力は遅くとも、この未使用計算能力を世界規模で束ねれば、スーパーコンピューターに匹敵する計算が可能になるというのが、その趣旨だ。天文学的な問題を対象にしているSETIなどは代表的な例ではないかと思う。参加者はもちろんボランティア。インターネットに接続された、クライアントとなる自分のパソコンに専用アプリケーションをインストールすれば、バックグラウンドでサーバーからリクエストされた計算が行われ、自動的にサーバー側に計算結果を送信するしくみである。
 久夛良木氏の述べている構想では、各クライアント(PS3)が受動的に要求された計算を実行するだけでなく、もう一歩踏み込んで、能動的に架空の’ハイパワーPC’(計算要求及び計算結果を集約する側)に計算を要求するという点が、上に挙げたようなネットワークを使った従来の分散処理プロジェクトと異なる(もし間違ってたらご指摘願います)。

 説明が長くなったが、上記ニュースによれば、まずはPS3でボランティアができるということだ。上述のガン研究に参加するために必要となるアプリケーションは'Cure@PLAYSTATION 3'と呼ばれるらしい。面白いことに、これに関しての情報は、XBox360を擁するマイクロソフトのMSNニュースサイトには載っているが('Sony PlayStation 3 gamers to be asked to aid cancer research (AP, 11/17)')、SCEのウェブサイトでは私が探した限りでは全く見つからない。
 ちなみに2002年にはたんぱく質の構造研究、今回はガン研究という内容だったので、違うプロジェクトなのかと思いきや、何のことはない、ガンにまつわるたんぱく質の構造研究が対象らしい。違う表現のせいでややこしいが、2002年当時から対象となる研究は変わっていない。

 ユーザー側からすれば、便利な話だろう。ゲーム機をネットワークに繋げておくだけで、言うなれば人類の健康のための研究に貢献できるのだ(笑)。PS3をねだる時に、「遊ぶだけじゃなくて、ボランティアもできるんだよ」と言うのも手かもしれない(笑)。何ともズボラなボランティアだが。必要となるアプリケーションの名前'Cure@PLAYSTATION 3'も、SCE側のPR効果を狙っただけでなく、参加ユーザーのボランティア心をくすぐる名前になっていると思うのは、勘繰り過ぎだろうか。

 とは言え、実際にゲームコンソールを使ってこういったプロジェクトに貢献できるようになるのは、良いことだと思う。ただ気になるのが、現在の状況では、ユーザー側には参加するプロジェクトを選ぶ権利は与えられていない。当初の久多良木氏の構想通りに、PS3がリナックスを搭載したマシンになるとしたら、スタンフォード大学の研究に限らず、様々なプロジェクトのためのPS3向けクライアントアプリケーションを開発することが可能だから、ユーザー側には複数の選択肢ができるはずだ。しかしPS3が専用のOSを搭載している限り、ソニー及びSCEと何らかの協力関係がある、あるいは提携を結んだ機関とのプロジェクトしか、選択肢に挙がり得ないのではないのだろうか?

 ゲームコンソール向けでは初の分散処理用アプリケーションとなるはずの'Cure@PLAYSTATION 3'はまだリリースされておらず、リリース時期も不明。リリースされたら、また詳しい内容について見てみたいと思う。更に、先の話に立ち戻って、久多良木氏が狙っているという、「PS3のセルの計算能力を使い、ネットワークを通じて劇的に性能を引き上げるようなアプリケーション」の先行きも、気になるところ。XBox360をHD(高品位)画像ファイルのストリーミングに使おうとしている我が家でも、ゲームコンソールは既にゲームだけのものではなくなってきている。PS3はこれからどこへ向かうのだろうか。
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